Z1000A1 S.S様 モーリスホイールの修理

 

ドレミ製モーリスマグの修理のご依頼です。修理と原因究明、カラー製作に必要な部位だけお持ち込みいただきました。スプロケキャリアのカラーが削れてベアリングも破損しています。

 

元はこの状態で入手した車両とのこと。何か整備不良でもあったのでしょうか。原因はおおよそ見当が付きました。

 

スプロケキャリアがこちら。その他付いていて破損したパーツも一緒にあります。

 

キャリアの内側はこんな感じ。ホイールとの間に入るカラーの外径が小さいようです。ディスタンスカラーとして機能していなかったと思われます。

 

アクスルシャフトの締め付けにより、キャリアのベアリングに過大なスラスト力が掛かり、走行中ベアリングが発熱→破損→一時的に焼き付き→アクルスシャフトごと回転→カラーが摩耗 といった流れで破損したと思われます。不適切なディスタンスカラーを使ったことが原因でしょう。

  

ホイール側はこんな感じ。ベアリングは少し渋く、スナップリングが外側に押されて変形しているのがわかります。ベアリングを少し打ち込まないとスナップリングは外せませんでした。

 

右側は特に異常が無いように見えます。

 

アクスルシャフトはこちら。

 

シャフトには回転方向にキズが多数あります。

  

一部には金属が溶けてくっついています。削れたアルミカラーの一部でしょうか。

 

キャリアのベアリングを外します。幸い、ハウジングに特に損傷は無いようです。

 

新しいベアリングを準備します。

 

ベアリングを圧入します。キャリアはこれで修復OKです。

 

本来、このモーリスマグのキャリアとホイールの間には、このようなディスタンスカラーが入ります。Z系など広く純正ホイールも同様な構造になっています。但し、社外のホイールはそれぞれのメーカー独自の構造なので、カラーの入る方向、形状などは様々です。

 

ディスタンスカラーを装着するとこんな感じ。

 

表から見るとこんな感じ。破損時に付いていたカラーの向きや形状がこれと異なるのがわかります。

  

ホイール左側、ベアリングが飛び出してスナップリングが押されているので、このままでは外せません。

 

ホイールのベアリングは左右同じでこちらを使います。

 

ホイールのベアリングを外します。内部のディスタンスカラーはこちら。

 

端面に段付きがあるのがわかります。元は出っ張った方の面で面一だったはず。

 

この段はベアリング内輪の形状と一致します。リヤアクスルシャフトの過大な締め付けトルクでカラー端面が潰れて座屈したものです。ベアリングインナーレースとの接触面は、わずか2ミリほどなので潰れやすい構造です。カラーの外径をインナーレース外径に合わせた設計にすれば面圧が下がって座屈は起きにくいのですが、社外ホイールの多くはこれと同じような構造になっており、リヤアクスルシャフトの締め過ぎはディスタンスカラーの座屈を引き起こし、ホイールベアリングに過大なスラスト荷重がかかって破損する原因となるのでトルク管理は必須です。特にダイマグホイールはここが弱いです。

 

ディスタンスカラーの全長は91.57ミリです。

 

段付き部分で測ると90.99ミリ、その差0.58ミリ。約0.6ミリも短くなっています。

 

左側に新しいベアリングを圧入しスナップリングをセット、トルクチェックもしておきます。

 

ディスタンスカラーをセットします。この状態でベアリングハウジングのアウターレース側の奥行きを確認します。まだ0.2ミリほどの余裕があるので、まだこのカラーで組めることがわかります。

 

右側のベアリングを圧入します。圧入の際にはカラーを当ててベアリング内輪と外輪を平面で同時に押すことがキモです。

 

内輪がディスタンスカラーに接触したところで圧入をやめます。このように、スナップリングの無い側のベアリングは、ディスタンスカラーの長さに応じて圧入深さが決まる構造になっている場合がほとんどです。ベアリング脱着の際には、その構造を十分理解した上で作業することが肝心です。

  

スプロケキャリアをセットします。ホイールとキャリアはわずかに隙間が空くのが正解。クリアランスは0.2~0.5ミリ程度あれば大丈夫です。このクリアランスを決めているのもディスタンスカラーです。

 

スプロケナットのトルクも確認します。2ヵ所は少し緩めでした。

 

続いてアクスルシャフト。金属の溶着部分を直します。

 

溶着した金属片をヤスリで削り落とします。

 

傷を滑らかに研磨します。

 

ベアリングがスムーズに通るか確認します。

 

曲がりも無いことを確認します。シャフトはこれで大丈夫。

 

チェーンスライダーのボルトが脱落していたので止め直します。樹脂版の締め付けで緩みやすいので、ネジロックを少量塗って締め付けておきます。雌ネジがナットサートなので、ネジロック剤を多く塗り過ぎると、外す際にナットサートも回ってしまうので分量は要注意。

 

スイングアーム左内側のアクスル部です。回転キズがあります。

 

その外側です。ワッシャーごと回転したようで、削れて段が付いています。

 

チェーンの張り調整でスライドする部分なので、段付きを滑らかに均しておきます。

 

続いてピボット部。このサイドカラーが左右とも固くて回転しません。

 

分解点検します。

 

サイドカラー内径は十分大きいのですが、内部のOリングと溝の設定が悪く、潰れ代が大きすぎるのできついようです。

  

Oリングは無しで組むことにします。カラーにも多めにグリスを塗り、シールとします。

 

これでスムーズに回転するようになりました。

 

チェーン引きのブロックはこんな形状です。裏表で片側のみ溝があります。

 

スイングアーム本体のを覗くと内側に出っ張りがあるのがわかります。一般的にスチールパイプ材は製作工程で平板を曲げて成形し溶接して作るのでその溶接痕です。

 

チェーン引きの溝はこの逃げとしてあるので、この向きでセットします。

 

アジャストボルトの出代を確認します。左右同じ長さなので、ボルトの出代で左右の位置を確認すればいいでしょう。

 

ホイールセンターを確認するため、定盤の上でアライメントを計測します。

  

シャフト部に長さのわかっているカラーを入れ、定盤とリム間の距離を測ります。

 

反対側のベアリングまでの高さを測ります。これとリム幅の寸法から、ホイールがスイングアームのセンターに来るようにアクスルシャフトのカラーを設定します。

 

ローターの内側にワッシャーが入っていることに気が付きました。ローターのオフセット量を調整してあるようです。

 

今回は新たにカラーを製作するので、シンプルになるようワッシャーを外します。

 

ローターを取り付けます。

 

規定トルクで締め付けます。

 

既存のカラーでキャリパー周りを仮組します。

 

ローターとキャリパーのセンターがズレているので、この場合は内側のカラーを長くします。

 

内側のカラーを新たに製作しました。

 

サポートのベアリング周りはこんな構成。内輪、外輪、サポートは面一なので、カラーにはわずかに段を付けておきます。

 

新しいカラーで仮組します。

 

ローターとキャリパーのセンターは合いました。

 

そのあとサポート外側のカラーも新しく製作。これでスイングアーム内幅に対してホイールはセンターに配置されます。

 

ホイールとスイングアームを仮組します。

 

上から見るとこんな感じ。タイヤとスイングアームの間隔を見るとチェーン側の方がやや狭く見えますが、これでホイールセンターが正しい状態です。

これでホイールは無事に復活できました。今回はスプロケキャリア内側のディスタンスカラーが原因でしたが、ホイール内のディスタンスカラーも過去のオーバートルクで座屈していることが分かりました。正しい部品構成と正しいトルク管理は、安全のためにも重要なポイントです。各部の締め付けトルクは、基本的にサービスマニュアルを準拠してください。

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