例の南ア製S1キャリパー、あるユーザーから調査依頼が届きました。角シールとなった新型も結論はNGです。
外観はほぼ前回と同じ。ブリーザーも2面幅が本物は10ミリのところこちらは8ミリ。同じサイズにしてほしいです。パッドピンは本物に近いタイプに変更されていますね。しかしベータピンが大きすぎてピストンと干渉しそうです。ポケットからもはみ出しているので、パッド間隔を最大に広げる際に邪魔になりますね。ここも改良を望みます。
ブレーキチューブのナットは2面幅が11ミリ。本物は10ミリ。ナットが大きいとスパナも大きくなり、周囲が狭いので整備性が悪くなります。特殊な薄肉レンチを作らなければ回せません。ここも本物に合わせてください。
ピストンを外します。エア圧で抜きますが、かなりきつかったです。おまけにチューブの根元からは大量にエア漏れしていました。フレアナットは固く締まっていますしたが・・・。
裏側の形状はAP風のデベソ型。エア抜け性はいいでしょう。
口元の面取りはかなり偏心していますね。精度の悪さを示しています。
今回からシールは角断面。今までの丸断面シールはブレーキキャリパーとしては非常識。角型が常識。ミヤコ自動車のものを使ったのでしょうか。
溝にはまった状態のピストンシール、出っ張り具合が大きいようです。シールの潰れ代はピストンのスプリングバック量のチューニングに大事な要素。これは一般的なキャリパーよりやや溝が浅い感じがします。ピストンが抜けにくかったのはこのせいでしょうか。溝口元の面取りの大きさもキックバック量に対する重要な要素。面取りが大小あるので設計上重要視していないことの現れでしょう。
溝の底の形状を確認するため粘土で型取りします。
型取りした粘土をカットして溝断面形状を確認します。溝の底は奥の図のように外広がりのテーパーになっていなければなりませんが、一応そのようになっていました。角度のチューニングも大事な設計要素です。
ブレーキチューブ、ブリーダー、ブラインドプラグ。ここは変更無いようです。
チューブの穴の底は全ヵ所中心が低いテーパー形状。
チューブの端部はダブルフレアのような形状。穴底が中心が低いテーパー形状の場合、チューブ側はコンベックス形状を組み合わせなければなりません。チューブがダブルフレアの場合は中心が高いテーパーと組み合わせます。これだと組み合わせが違いますね。エア漏れするわけです。
チューブ端部をよく見ると、かなり歪んだ形状です。かなり偏心しているのでこれではいくら締めても液漏れは必死でしょう。
反対側も酷い出来です。
シールを抜いた状態でピストンクリアランスを確認します。かなりカタカタ動くのでクリアランスは多過ぎでしょう。通常はほとんど動きません。
ピストン径を計測します。48.08ミリです。本物は48.05ミリくらいです。
シリンダー内径は48.25ミリ。クリアランスは0.17ミリとなり、やはりかなり広過ぎです。純正キャリパーなど多くのキャリパーはクリアランス0.05ミリくらいです。S1キャリパーのピストンは長さに対して極端に径が大きいので倒れやすく、パッドが消耗した時にピストンが倒れて戻り不良を起こしやすくなります。
というわけで、今回もレーシングユースに耐えるものではなさそうです。更なる改善を望みます。大事なことは、中身も本物を正確にコピーすれば先ずはスタートラインに立てるのですが。