先日車両から降ろしたエンジンを分解点検します。元のフレームとは別の車両のエンジンとのことで、ヘッドやシリンダーなど、数機分の部品が仮組された状態とのことでした。これから行う予定のレストア素材として適しているでしょうか。因みに、エンジン番号からクランクケースはZ1100-B1の物、ヘッドはインジェクター穴が無くエンジン温センサーネジがボスごと無いので1000Jの物のようです。シリンダーは1.089Lの鋳出し文字なので1100用ですね。
ヘッドカバーを開けます。仮組なのでカムチェーンはかけられていませんね。カムは1000J系のノーマルでした。
カムホルダーのボルトがいくつも純正以外のボルトに変更されていますね。おそらくヘッド側の雌ネジに問題があるのでしょう。
シリンダーを外します。ピストンを外したいのですが、クランクが少しの角度しか回らないので、1番と4番はピストンピンが隠れて外せません。
腰下でなにか引っかかっているかもしれないので、先に腰下を分解しましょう。エンジンカバー類を外します。
ジェネレーターローターを外すと、クランクテーパーに少し傷がみられます。修正すれば何とか使えるレベルでしょうか。
スタータークラッチは、ボルトの頭が削れているので、過去に緩んだ形跡がありますね。
サイドのカバーを外したら、エンジンを反転します。
ドレンボルトのネジは舐めているとのこと。オイルパンは交換する予定です。
オイルパンを外します。スラッジの堆積はあまりありませんが、オイルと水が混じって乳化したものが溜まっていますね。エンジンがかかっていたころ、エンジン温を上げずに内部結露が凝縮したものでしょうか。走らせないでエンジンの短時間始動のみを繰り返すと、このように結露するものです。
クランクケースを分離します。合わせ面の赤い液体ガスケットは分解歴がある証拠です。
一見、大きな破損は無いようですが、ベアリングハウジングに相当する部分に問題があります。
こちらはクランクベアリングのハウジング部分です。あばたのようにボコボコしています。これは「フレッチングコロージョン」という現象で、振動による摩耗現象です。ベアリングアウターレースがハウジングの中で上下に振動し、ケース面が叩かれて表面が金属疲労して摩耗していきます。ケースが緩くなっている、またはクランクの振動が大きかった、などが考えられます。赤い液体ガスケットはおそらく流動性の低い物でしょうし、厚く塗られていたようなので上下ケースの密着が悪かったのも原因かもしれません。
ミッションベアリングハウジング部分は比較的きれいです。
ミッションギヤを外したこの状態でも、クランクはわずかな角度しか回りません。
カムチェーンを浮かせてみると、ギヤのところもかなり錆びています。
クランクホルダーを外します。これでもクランクは回りません。なんども前後にゆすっていると、30°ほど回るようになりました。
ピストンが少し出てきたので、ようやく外すことができそうです。
ピストンが外れました。これでクランクが外せます。
クランクを外してみると、オイル穴のところにも赤い液体ガスケットが結構溜まっています。これではオイル不足でベアリングが焼き付いてしまいますね。
よくクラックの入っていることがある右から2番目のこのノックピンのところですが、幸いクラックは無いようです。
クランクシャフトは、半数のベアリングが渋くて回りません。
アウターレースをずらしてみると、ローラーはかなり錆びています。ローラーの内輪は無く、クランク自体を軸としてローラーが転がる構造の為、ベアリングがサビていたらこの部分は使えないでしょう。部品取りにはなるかもしれません。
4番コンロッドはわずかな角度しか動きません。おそらくベアリングが焼き付いて破損しているのでしょう。
総じてこのエンジンは素材としは不適格でしょう。動けばいいレベルには充分組めますが、信頼性のある状態にするには困難です。問題無く使えそうなのは、ミッションとシリンダーのみです。